5月の映画鑑賞ガイド

お知らせ

新緑が眩しい季節がやってきました。5月の上田映劇は、当館ならではの特別なイベントや、地域に根ざした特集、そして世界中から届いた珠玉の作品群が目白押し。皆様の「今の気分」にぴったり合う映画が、きっと見つかるはずです。

▼ INDEX ▼

【今月のメインテーマ】
1. 蚕都・上田で紐解く、幻のシルクと職人たちの物語
2. ボタニカル・ダイアリー:土と植物に触れ、大地の知性に耳を澄ませる
3. 60年代のポップ&メランコリー:時代を彩るカルチャーと、すれ違う恋の記憶

【今月のトピックス】
4. 境界線を越えて:社会の「見えない壁」と、揺さぶられる私たちの正義
5. スクリーンから溢れる熱:焦燥と再生をめぐる、作り手たちとの交差点
6. 当館に刻まれた記憶:あの一座が駆け抜けた、熱気と狂気のロードムービー

【テーマ別 上映作品】
7. 映画館が至高のコンサートホールに:天才音楽家たちの軌跡と旋律
8. 魂を震わせる初期衝動:アニメーション監督・岩井澤健治
9. 疾走する若き魂:閉塞を打ち破る、衝動と反逆
10.家族の形を探して:揺らぐ絆と、手探りで紡ぐ愛の行方
11.人生の晩秋を見つめて:記憶の彼方で、それでも続いていく舞台
12.天空の村の記憶:無垢な瞳が見つけた、純粋な好奇心と映画の魔法
13.日常を侵食する「異界」:見慣れた景色のすぐ隣にある、恐るべき扉

【5月の特集上映】
14.記憶に棲みつく愛と孤独:名匠ヨアキム・トリアーの軌跡と現在地
15.光の粒子と記憶の断片:デビュー30周年、岩井俊二が刻んできた物語

【今月のメインテーマ】

上田の歴史、自然と共にある暮らし、そして不変のカルチャーを深く掘り下げます。

1. 蚕都・上田で紐解く、幻のシルクと職人たちの物語

かつて「蚕都」として栄え、絹と共に歩んできた上田の街。幻の絹〈セヴェンヌ〉をめぐる歴史と職人たちの手仕事に迫るドキュメンタリーを、この地で上映する意義深さをぜひ劇場で体感してください。初日からの3日間は、特別なトークイベントも開催いたします。

『マダム・ソワ・セヴェンヌ』[5/8~]
マリー・アントワネットが愛したとされる伝説の絹〈セヴェンヌ〉。その世界最高品質と言われた伝統と技術を未来に繋ごうと奮闘する、日仏の養蚕家や織物職人たちの姿を3年の歳月をかけて取材したドキュメンタリーです。人間国宝・坂東玉三郎さんの雅びなナレーションとともに、これまで明かされることのなかった匠の手仕事と、天然素材で染め抜かれた息を呑むような色彩がスクリーンに蘇ります。

2. ボタニカル・ダイアリー:土と植物に触れ、大地の知性に耳を澄ませる

日々の営みを慈しむ庭先の風景から、都市の隙間に息づく苔や雑草、そして悠久の森の神秘まで。植物と向き合い、自然の摂理と対話する喜びを、4つの切り口で味わう大特集です。

A.[庭と食卓、日々の営みを慈しむ]
『かもめ食堂』[終映日未定]
フィンランド・ヘルシンキの街角で、日本人女性サチエが営む小さな食堂。看板メニューは素朴なおにぎりです。最初は客が来ない静かな日々でしたが、やがて偶然の出会いをきっかけに、少し不思議で温かい人々が集い始めます。北欧の柔らかな光と空気のなか、美味しい食事と何気ない会話の積み重ねが、観る者の心までゆっくりとほどいていくスローライフ映画の金字塔。
『人生フルーツ』[5/22~]
愛知県の高蔵寺ニュータウンの片隅。雑木林に囲まれた平屋で、四季折々70種の野菜と50種の果実を育てる90歳の建築家・津端修一さんと87歳の妻・英子さん。かつて自然との共生を目指したニュータウン計画に携わった修一さんが、自ら実践し続ける「本当の豊かさ」とは。ふたりがコツコツと時をためてきた、美しく細やかな暮らしの記録です。
B.[都市と森の境界線で、他者と出会い直す]
『ドランクヌードル』[5/22~]
夏のブルックリン。美大生の青年アドナンは、ギャラリーでのインターン中、去年の夏に出会った奇抜な刺繍アーティストの作品と再会します。都市の街角と州北部の豊かな森を行き来しながら、過去と現在が交錯。淡い幻想が差し込む夏の夜を漂うように、記憶と欲望、そして官能がゆるやかに混ざり合っていく斬新かつ詩的な傑作です。
『Here』[5/29~]
ブリュッセルで建設労働者として働くシュテファンは、帰国を前に森を散歩中、苔類の研究者である女性・シュシュと偶然再会します。多文化が交差する都市の片隅で、見落とされがちな他者のさりげない優しさや、足元に広がる多様で親密な苔の世界。16ミリフィルムの淡く美しい映像とサウンドスケープが、世界と出会い直す喜びを静かに祝祭します。
C.[足元の小さな命から、世界を知る]
『ボタニスト 植物を愛する少年』[5/29~]
新疆ウイグル自治区の広大な草原。自然と対話し、植物を観察することで世界と向き合う13歳の孤独なカザフ族の少年アルシンは、漢民族の少女メイユーとの出会いを通して少しずつ変化していきます。言葉にならない感情や揺らぐ時間が、圧倒的な風景の美しさと相まって、夢と現実の境界を揺らす詩的な映像体験へと誘います。
『ザッケン!』[5/29~]
まだ夢中になれるものが見つからない高校1年生のゆかりは、雑草をこよなく愛する同級生「ドクダミちゃん」と出会い、休部状態の「雑草研究部」復活に向けて奔走することに。足元にひっそりと生きる小さな植物たちが教えてくれる生命力や季節の変化に触れながら、混沌とした青春の中で少しずつ自分らしさを見つけていく、瑞々しくも優しいストーリーです。
D.[悠久の森、大地の知性と共生する]
『山人(やまんど) 縄文の響きが木霊する』[6/5~]
福島県奥会津の深い山奥に暮らし、山を知り尽くした「山人」である菅家藤一さん。四季を通じて山に入り、自然を壊すことなく山の恵みに生かされるその営みは、縄文時代から受け継がれてきた暮らしの作法です。現代人が見失いつつある大切なメッセージと、持続可能な未来への手がかりを、豊かな山の風景とともに浮かび上がらせます。
『森に聴く Listen to the Forest』[6/5~]
国土の7割が森林である日本。北海道から沖縄の西表島まで、日本を代表する研究者らとともに各地の巨木の森へ分け入り、その神秘に迫るネイチャードキュメンタリー。私たち人類よりはるかに長い時を生き抜いてきた木々は会話し、思考する。人間の想像を超えた多種共存の森の「知性」が、私たちに未来のあり方を問いかけます。

3. 60年代のポップ&メランコリー:時代を彩るカルチャーと、すれ違う恋の記憶

ファッション、音楽、そして新しい価値観が爆発した1960年代。そのエネルギッシュな輝きと哀愁をスクリーンに焼き付けた名作たちと、都市の孤独をスタイリッシュに切り取ったウォン・カーウァイ監督の傑作群をお届けします。

『花様年華』25周年特別版[5/1~]
1962年の香港。同じアパートへ引っ越してきたチャウとチャンは、互いの伴侶が不倫関係にあることに気付き、やがて惹かれ合っていきます。トニー・レオンがカンヌ主演男優賞を獲得したウォン・カーウァイ監督の代表作が4Kで蘇ります。今回は公開25周年を記念し、かつてカンヌで上映されたのみの伝説的未公開短編『花様年華2001』と同時上映。
『恋する惑星 4K』[5/2・5]
失恋した刑事223号と金髪の女性の一夜、そして新入り店員フェイと警官663号のすれ違う恋模様。香港の街角を舞台に、若者たちの孤独と恋を極彩色のスタイリッシュな映像で描き、ウォン・カーウァイ監督の名を一躍世界に知らしめた90年代カルチャーのマスターピース。公開当時、日本中のミニシアターを熱狂させた群像ラブストーリーです。
*『花様年華』25周年特別版公開記念2日間限定上映
『ツイッギー』[5/8~]
小枝のように細い体と大きな瞳、唯一無二のファッションセンスで1960年代に一世を風靡した元祖スーパーモデル、ツイッギー。時代を席巻し、日本でも熱狂的なブームを巻き起こした彼女の人生と魅力をひもとく初の公認ドキュメンタリーです。時代を超えて女性に影響を与え続ける、ポジティブなエネルギーと自己表現の素晴らしさに満ちた物語。
『ひなぎく 4Kレストア版』[5/15~]
人形の真似をしたり、男たちを騙して食事をおごらせたりと、自由気ままに悪ふざけを楽しむ“マリエ1”と“マリエ2”の2人の少女。色ズレやカラーリング、実験的な手法を駆使して描かれる本作は、上映禁止の危機を乗り越え、今なお世界中のクリエイターに影響を与え続けるチェコ・ヌーヴェルヴァーグの傑作であり、60年代女の子映画の決定版です。
『海辺の恋』[5/22~]
夏の海辺で愛を確かめ合う水兵ダニエルとジュヌヴィエーヴ。しかしヴァカンスが終わり、二人は手紙で想いを綴りながらも離れ離れに。そこにアルジェリア戦争から帰還したもう一人の水兵が加わり、想いは静かに交錯します。アラン・ドロンら時代を象徴する俳優たちが彩る、若者たちの揺れ動く心の儚さと不在の痛みを鮮烈に刻んだ青春の詩編。
『オー・パン・クぺ』[5/29~]
亡き恋人ジャンを思い返しながら、今も彼の記憶とともに生きる女性ジャンヌ。現在をモノクロ、追想の断片をカラーで紡ぐ美しい映像が、社会の秩序を拒み死を選んだ彼と、取り残された彼女の想いを描き出します。マルグリット・デュラスが「映画においてかつてなかった愛の表現」と手放しで絶賛した、繊細でメランコリックな愛の記憶をめぐる物語。
今月のトピックス

イベント、ライブ、そして「当館」そのものが主役となる特別な上映を集めました。

4. 境界線を越えて:社会の「見えない壁」と、揺さぶられる私たちの正義

理不尽なシステム、外国人排斥、そして冤罪。社会の境界線で揺さぶられる人々の尊厳と連帯を描く力強い作品群です。『イマジナリーライン』では、寺尾紗穂さんのライブと識者による貴重なライブ&トークイベントもお見逃しなく。

『イマジナリーライン』[5/15~]
映画制作を続ける山本と、親友のモハメド夢。しかしある日、夢が在留資格を持たないことが発覚し、入管施設へ収容されてしまいます。理不尽な運命に引き裂かれながらも、二人はわずかな希望を求めて立ち上がります。入管内部の実態に深く切り込みながら、「共に生きるとはどういうことか」を鋭く問いかける、緊張感とリアリティに満ちた一作。

『ツーリストファミリー』[5/15~]
スリランカの困窮から逃れるため、夜に紛れてインドへ密入国した一家。大都市チェンナイで身分を偽りながらも、彼らの素朴で人懐っこい人柄は次第に周囲の人々との間に交流を生んでいきます。経済難民や外国人排斥といった重いテーマを背景に持ちながらも、家族愛と隣人との豊かな関係が巻き起こす「ささやかな奇跡」をユーモアたっぷりに描く大ヒット感動作。
『揺さぶられる正義』[5/15~]
多くの親が逮捕・起訴され、冤罪を生み出した「揺さぶられっ子症候群(SBS)」。幼い命を守る使命感を持つ医師たちと、無実を訴える家族に寄り添う検証プロジェクトチームが激しく衝突します。センセーショナルな報道の裏側で何が起きていたのか。一人の弁護士記者がジレンマに苛まれながらも真実に迫る、贖罪と覚悟のドキュメンタリー。

5. スクリーンから溢れる熱:焦燥と再生をめぐる、作り手たちとの交差点

映画館は、作り手と観客が直接思いを交わすことができる場所です。今月は、人生の踊り場でもがく人々を鮮烈に描いた3作品で、監督やキャストをお招きした舞台挨拶を開催します。

『愛のごとく』[5/8・10・13]
小説家としてデビューするも今はライターとして生きる男・ハヤオと、8年ぶりに再会した元恋人のイズミ。SMに耽る夫婦の背徳的な姿を垣間見たことをきっかけに、ハヤオの心は揺らぎ始めます。早逝の天才作家・山川方夫の遺作を現代に転生させ、現実と幻想が交錯するなかで「愛とは、幸福とは何か」を問いかける、新たな官能純文学。
*3日間限定上映

『わたしの頭はいつもうるさい』[5/9・10・14]
小説家を目指して上京したものの、鳴かず飛ばずのまま25歳になった“のぞみ”。そんな彼女の前に18歳の“ノゾミ”が現れ、「東京でひと花咲かせたか?」と容赦なく問い詰めてきます。過去の自分と対峙し、見過ごしてきた現実に向き合っていく姿を描いた、変わりたいのに変われないすべての人に贈るクォーターライフクライシスムービー。
*3日間限定上映

『生きているんだ友達なんだ』[5/9・10・14]
母親の代わりにパチンコ店で働き、退屈な日々を送る優実の前に現れた、無責任でいい加減な友人・石井。ある日、彼女は不思議なメモを残して突然姿を消してしまいます。5年後、都会で華やかな生活を送る優実が、かつての日々に思いを馳せる喪失と再生の物語。「初恋、ざらり」などで知られる気鋭の脚本家・上野詩織の監督デビュー作です。
*3日間限定上映

6. 当館に刻まれた記憶:あの一座が駆け抜けた、熱気と狂気のロードムービー

柄本明率いる劇団東京乾電池の役者たちが、ワゴン車1台で全国の映画館を巡るロードムービー。昨年の同時期に当館で行われた熱気あふれる公演の様子もスクリーンに登場します。「自分たちの映画館」が舞台となる特別な鑑賞体験をぜひ。

『今は昔、栄養映画館の旅』[5/22~]
座長・柄本明率いる劇団東京乾電池の劇団員たちが、1台のワゴン車に乗り込み、全国24の映画館を1ヶ月かけて巡る旅公演に出発!走って、語って、演じて、弱って、飲んで、笑う。不条理劇「今は昔、栄養映画館」の上演とともに繰り広げられる、役者たちの熱気と狂気、そして映画館という磁場への愛に溢れた渾身のドキュメンタリー。
テーマ別上映作品

多様な視点で描かれる、世界の今と物語。

7. 映画館が至高のコンサートホールに:天才音楽家たちの軌跡と旋律

『Ryuichi Sakamoto | Trio Tour 2012』[5/6まで]
世界的音楽家・坂本龍一が、チェロのジャキス・モレレンバウム、ヴァイオリンのジュディ・カンとともにヨーロッパ各国を巡った2012年の貴重なトリオ・ツアーの模様を収録したライブ・ドキュメンタリー。「戦場のメリークリスマス」や「ラストエンペラー」といった映画音楽の名曲からYMOの楽曲までが、親密かつ芳醇な室内楽のアンサンブルへと生まれ変わります。教授の静かな息遣いや、弦楽器が擦れる繊細な響きを、まるでホールにいるかのような臨場感で味わえる至福の音楽空間です。
『ブーニン 天才ピアニストの沈黙と再生』[5/6まで]
1985年のショパン国際ピアノコンクールで圧倒的な優勝を飾り、日本中に「ブーニン現象」と呼ばれる社会ブームを巻き起こした天才ピアニスト、スタニスラフ・ブーニン。本作は、ケガや病気により10年もの長きにわたって表舞台から遠ざかっていた彼が、再びステージへと復帰するまでの過酷な道のりに密着した感動のドキュメンタリーです。妻の支えとともに、音楽への深い愛と情熱を不屈の精神で取り戻していく姿が、美しいピアノの調べとともに胸を打ちます。

8. 魂を震わせる初期衝動:アニメーション監督・岩井澤健治

『ひゃくえむ。』[5/4まで]
才能だけで勝ってきたトガシと、辛い現実から逃れるために走っていた転校生の小宮。100m走を通してライバルであり親友となった二人は、やがて追う者と追われる者として再び対峙することになります。『チ。-地球の運動について-』の魚豊の原点となる傑作コミックを、気鋭のクリエイター・岩井澤健治がアニメ化。情熱と狂気がトップスピードで駆け抜けます。
『音楽』ブラッシュアップ版[5/3・4・11]
楽器にすら触れたことのない不良学生たちが思いつきでバンドを結成!実写の動きをトレースする「ロトスコープ」手法を用い、4万枚以上の作画を手描きして7年越しで完成させた異色のアニメーション。クライマックスのフェスシーンの圧倒的な熱量で数々の映画祭を席巻した本作が、監督自ら200カット以上を手直ししたブラッシュアップ版として再臨します。
*『ひゃくえむ。』公開記念3日間限定上映

9. 疾走する若き魂:閉塞を打ち破る、衝動と反逆

『炎上』[5/1~]
東京都新宿区歌舞伎町、炎上。犯人は無職の十代の女性。カルト宗教の信者の家で厳しく育てられた少女は、母の目を盗んで家を飛び出し、SNSのDMを頼りに広場にたむろする若者たちと出会います。居場所と新しい名前を手に入れた彼女が、なぜ街に火をつけるに至ったのか。その150日間の軌跡を、魂を込めた森七菜の熱演で描き出します。
『ペリカン・ブルー 〜自由への切符〜』[5/1~]
90年代のハンガリー。“鉄のカーテン”崩壊後、海外旅行が自由化されたものの、国際列車の切符は庶民には手の届かない高額なものでした。ヒマはあるけどカネがない若者3人は、家庭用洗剤を使って切符のカーボンインクを溶かし、行き先を偽造するブッ飛んだ計画を思いつきます。国家を揺るがす大騒動へと発展した、ヤバすぎる実話アニメーション。

10.家族の形を探して:揺らぐ絆と、手探りで紡ぐ愛の行方

『ヴィットリア 抱きしめて』[5/8~]
イタリア南部の街で満ち足りた生活を送る40歳のジャスミンは、どうしても娘が欲しいという思いに囚われ、国際養子縁組を決意。しかし、制度の高いハードルや家族の反発に直面し、一家は疲弊しながらも大きな決断を迫られます。実際の家族が本人役を演じるという驚くべきアプローチで、親になることのプロセスと葛藤をリアルに描いた感動の実話。
『Riceboy ライスボーイ』[5/8~]
1990年代、未婚の母となったソヨンは幼い息子を連れて韓国からカナダへ移住。人種差別や文化の壁に直面しながらも懸命に生きる彼女と、カナダでの生活に馴染みながらも自身のルーツに思いを募らせる16歳の息子。ある知らせをきっかけに初めて故郷の韓国へ帰郷し、母が語らなかった悲しみと対峙する親子の姿を、16ミリの柔らかな映像で紡ぎます。
『幸せの、忘れもの。』[5/22~]
聴こえない世界に生きるアンヘラは、夫や陶芸工房の仲間たちに見守られ、平穏な日々を過ごしていました。しかし、ある“幸せな出来事”を境に日常が揺らぎ、再び疎外の世界へと引き戻されていきます。ろう者の俳優である監督の実妹が主演を務め、ろう者と聴者のすれ違いや見え隠れする本当の幸せを、斬新な音響演出とともに繊細に映し出します。

11.人生の晩秋を見つめて:記憶の彼方で、それでも続いていく舞台

『カミング・ホーム』[5/15~]
認知症の初期症状を受け入れられず、ペンシルベニア州の小さな町で一人暮らしを続ける79歳のミルトン。ある夜、彼の庭に突如UFOが墜落し、同年代の隣人サンディーとジョイスだけがその秘密を共有することに。それぞれの孤独を抱えていた3人が、奇想天外な騒動を通して人生の喜びを取り戻し、自らの晩秋と向き合っていく珠玉のヒューマンドラマ。
『喝采』[5/15~]
ブロードウェイの第一線で活躍してきた伝説の大女優リリアン・ホール。チェーホフの「桜の園」の公演を間近に控えた彼女は、医師から認知症を宣告されてしまいます。現実と妄想の境目が曖昧になっていくなか、病魔に抗い、キャリアのフィナーレを飾る舞台に人生のすべてを賭ける姿を描いた、ジェシカ・ラング主演の深い感動を呼び起こすヒューマンドラマ。
*5月の PICK UP MOVIE !

12.天空の村の記憶:無垢な瞳が見つけた、純粋な好奇心と映画の魔法

『ブータン 山の教室』[5/15~]
歌手を夢見ながらも、ヒマラヤ山脈の標高4800メートルにある電気も通っていない秘境ルナナ村の学校へ赴任させられた若い教師ウゲン。現代の暮らしから切り離され戸惑う彼でしたが、純粋に学ぶことを渇望し、瞳を輝かせる子どもたちや大自然とともにたくましく生きる村人たちとの交流を通して、自身のなかにある“変化”を感じていきます。
*日本ブータン外交関係樹立40周年記念上映
『今日からぼくが村の映画館』[5/22~]
アンデスの小さな村に住む少年シストゥ。風が運んだ広告を頼りに移動映画館を訪れた彼は、生まれて初めて見る映画の物語にすっかり魅了されます。週に一度、村のみんなに映画の内容を伝える「語り部」となった彼ですが、ある日移動映画館が姿を消してしまい……。映画と出会った頃の純粋な驚きと初期衝動を呼び覚ますハートウォーミングストーリー。

13.日常を侵食する「異界」:見慣れた景色のすぐ隣にある、恐るべき扉

『脛擦りの森』[5/22~]
岡山に古くから伝わる妖怪「すねこすり」の伝承にインスピレーションを得て描かれる、美しくも残酷な愛の物語。足に傷を負った若い男が深い森の奥で迷い込んだ古めかしい神社には、謎の男と若く美しい妻が暮らしていました。高橋一生が4時間におよぶ特殊メイクで謎の老人に扮し、圧倒的な存在感で観る者を時が止まったような異世界へと誘います。
『廃用身』[5/29~]
ある町のデイケア施設で密かに広まる、漆原院長考案の画期的な老人医療。回復見込みのない手足=〈廃用身〉をめぐるその治療は、従来の常識を覆す究極のコスパを誇り、“好ましい副作用”まで現れるという。しかし、内部告発とある事件をきっかけに事態は暗転。合理性と狂気の危うい狭間へと踏み込んでいく医師の姿を描いた、不気味なヒューマンサスペンス。
『落下音』[5/29~]
1910年代、40年代、80年代、そして現代。北ドイツの農場を舞台に、4つの異なる時代を生きる4人の少女たちが体験する不可解な怪異と、彼女たちを覆い尽くす得体のしれない〈不安〉。第78回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映されるやいなや、「映画言語を更新する新たな才能」と世界中の批評家を虜にし、審査員賞を獲得した百年にわたる映像叙事詩。
5月の特集上映

圧倒的な映像美と、人間の痛みや愛しさをすくい取る繊細な眼差し。映画ファンの熱狂を底支えする「現代映画の至宝」と呼ぶべき二人の名匠をフィーチャーします。国や世代は違えど、常に新しい視点で心震える物語を紡いできた彼らの作品群。スクリーンに刻まれたその眩い軌跡を、たっぷりとご堪能ください。

14.記憶に棲みつく愛と孤独:名匠ヨアキム・トリアーの軌跡と現在地

第78回カンヌ国際映画祭グランプリにして、本年度アカデミー賞では国際長編映画賞を受賞し、絶賛された最新作の興奮冷めやらぬ中、現代映画のマスターピースとして名高い「オスロ三部作」を一挙上映いたします。

『センチメンタル・バリュー』[5/6まで]
俳優として活躍するノーラのもとに、かつて家族を捨てた映画監督の父が15年ぶりに現れ、新作映画の主演を打診してくる。怒りと失望から拒絶するノーラだったが、代役の決定や撮影場所を知ることで、抑えきれない感情が芽生えていく。あまりに不器用な父と娘の愛憎を描き、カンヌ国際映画祭グランプリに輝いたヨアキム・トリアー監督の最新傑作。
『リプライズ』[5/1~]
作家を志す二人の青年エリックとフィリップ。成功と失敗、友情とすれ違い、希望と絶望。人生の“リプライズ=反復/再演”を複層的な語りで描き出し、後の作風がすでに結晶しているヨアキム・トリアーの長編デビュー作にして青春映画の傑作。
『オスロ、8月31日』[5/2~]
薬物依存症の回復施設にいるアンデシュは、面接のために一日だけ街へ戻る許可を得る。過去の友人や恋人と再会しながら、自らの人生の空白と向き合う彼は、“取り返しのつかない決定的な一日”を静かに過ごすことになる。孤独な男の魂の彷徨を描く第二章。
『わたしは最悪。』[5/8~]
30歳を目前に、恋愛・キャリア・自己像に揺れ動く女性ユリヤ。人生の岐路での選択と後悔、関係の終わりと始まり。オスロの街を舞台に、“いまを生きること”の痛みと愛しさを鮮烈に描き、世界中で絶賛された現代映画のマスターピースにして「オスロ三部作」の最終章。

15.光の粒子と記憶の断片:デビュー30周年、岩井俊二が刻んできた物語

“ エーテルの、30年史。” 映像の詩情と情感を大切にしながら、つねに新しい視点で人の心を繊細に鮮烈に描き続けている岩井俊二。その長編映画監督人生30周年を祝う特集上映「IWAI SHUNJI The Film Works 30th Anniversary 1995–2025」の中から、当館では中期代表作を中心に6作品を上映いたします。

『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』[5/6まで]
花火は横から見ると丸いのか、平べったいのか。花火大会の夜、その答えを確かめるべく灯台へ向かう少年たちと、両親の離婚で転校が決まっていた少女の駆け落ち計画。淡く瑞々しい恋を懸けた勝負の行方が、ふたつの異なる結末へと分岐していく傑作ショートフィルム。
『四月物語』[5/5まで]
東京・武蔵野の大学に入学するため、北海道から上京してきた楡野卯月。新しい土地での生活、慣れない人々との出会い。実は彼女がこの大学を選んだのには、本人曰く“不純な動機”があった。満開の桜とともに始まる、ひとりの少女の知られざる小さな冒険の物語。
『リリイ・シュシュのすべて』[5/6まで]
美しい田園風景が広がる地方都市で、かつての親友からのいじめに遭い、窒息しそうな毎日を送る14歳の雄一。彼の唯一の救いは、カリスマ的歌姫リリイ・シュシュの歌声と、自らが主宰するファンサイトの中にいる瞬間だけだった。痛みと暴力、危うい思春期を鮮烈に描く衝撃作。
『花とアリス』[5/5まで]
同じバレエ教室に通う中学生の花とアリス。通学途中で出会った先輩に恋をした花は、彼が頭を打って朦朧としている隙に、ある大胆不敵な嘘をついてしまう。一つの嘘が更なる嘘を呼び、やがて可愛らしい三角関係はトリッキーな展開へ。少女たちの瑞々しい青春を切り取った傑作。
『ヴァンパイア』[5/4まで]
母親の介護をしながら高校教師として働くサイモンには、血を求めて獲物を探すヴァンパイアというもうひとつの顔があった。自殺サイトに集う女性を狙うことを思いついた彼は、「殺したい男」と「殺されたい女」という奇妙な共犯関係のなかで、唯一無二の愛を芽生えさせていく。
『花とアリス殺人事件』[5/11まで]
石ノ森学園中学校へ転校してきたアリスは、「ユダが、四人のユダに殺された」という奇妙な噂を聞く。隣の〈花屋敷〉に住む不登校のクラスメイト・花なら詳細を知っていると教えられ潜入したアリスは、花とともに事件の謎に迫ることに。岩井俊二が自ら手がけた初の長編アニメーション。

 

おわりに。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。新緑の風が心地よい5月。爽やかな気候とともに、上田映劇には今月もたくさんの豊かな物語が吹き込んできます。お散歩の途中に、あるいは休日の特別な楽しみに。日常から少しだけ離れて、暗闇の中で特別な時間をお過ごしください。スタッフ一同、劇場で皆様のお越しを心よりお待ちしております。

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