[INTRODUCTION]
第75回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員賞)の受賞を皮切りに、第73回サン・セバスチャン国際映画祭、第49回香港国際映画祭など世界各国の映画祭で称賛された映画『アニカの伝言』は、魔法のような子どもの成長と、家族のきずなを全編モノクロで綴ったロードムービー。
監督は、カンヌやヴェネツィアなど国際映画祭で注目を集めてきた気鋭の映像作家、イバン・フンド。即興を取り入れながら、実の家族や過去作を共にした仲間など、信頼で結ばれたキャスト・スタッフあわせて10名ほどの少数体制で撮影を行なった。劇中歌には、ペット・ショップ・ボーイズの「Always on my mind」を使用。アンドリュー・ヘイ監督作『異人たち』(2023年)でも印象的に使われたポップ・アンセムが、静謐な世界に鮮やかな瞬間を刻み込む。
2023年12月に⾃由⾄上主義を掲げるハビエル・ミレイ政権が発足以降、極度の緊縮財政により経済不安が広がるアルゼンチンの現代社会を背景に制作された本作。映画支援の予算も大幅に削減さる中、フンド監督は「今の社会を⽣き延びるための⼀つの⽅法を描きました。現代に<詩的な>映画を作ることは、⼀種の政治的抵抗になっていると思います」と語る。広大な大地から生み出される詩的なリズムと、まばゆいばかりの映像美──混沌とした時代に⽣きる人々の⼼に光を灯す<映像詩>が、忘れられない映像体験となって、観る者の心へと響く。