• HOME
  • ブログ
  • お知らせ
  • 7月の PICK UP MOVIE !『アイ・ワズ・ア・ストレンジャー』“私たちは よそ者に やさしくなれるだろうか”(文:田村志津枝)

7月の PICK UP MOVIE !『アイ・ワズ・ア・ストレンジャー』“私たちは よそ者に やさしくなれるだろうか”(文:田村志津枝)

お知らせ

私たちは よそ者に やさしくなれるだろうか

 シリアでは、アサド大統領の長期独裁政権への不満をきっかけに、政府軍と反体制派の間で内戦が勃発。2011年から24年までに1400万人が戦禍を逃れ、国外避難を余儀なくされた。本作の監督ブラント・アンダーセンは、プロデューサーの仕事と並行して難民の人道支援活動に携わってきた。この作品に登場するすべての逸話が、支援活動の現場で難民たちから直接聞いたものだという。
 一方で私たち観客はと言えば、命からがらボートで海を渡る難民のニュースに胸を痛めはするが、すぐに日常に取り紛れて忘れてしまう。その私たちに本作は、ドキュメンタリーを超える迫真力で、彼らの苦しみ・悲しみ・絶望・希望を訴えかけてくる。現実感溢れる映像と、練り上げられた構成がそれを可能にしている。全体を5章に分けて、ボートに集まってくる難民およびそれに関わる人を、それぞれの視点でじっくりと描き出す。そこからは、彼らが命がけで海を渡る抜き差しならぬ事情が見えてくる。
 冒頭はイリノイ州シカゴの病院で働くアミラだ。8年前、彼女はシリアのアレッポの病院で、次々に運び込まれる内戦の負傷者の治療にあたっていた。苛酷な職場を束の間離れた家族団欒の場が爆撃され、彼女は娘と共に国外脱出を決意する。その苦難の道行きに何らかの関りを持った人たちの思いが、それぞれ語られていく。国境警備にあたっていた政府軍兵士ムスタファは、上官からアミラ母娘の銃殺を命じられる、、。
 トルコのエーゲ海に面した町に住む密航業者のマルワン。彼は病弱な息子とアメリカに渡ることを夢見て、その資金集めに必死だ。彼の元にすがるように集まる難民たちから高額な料金を巻き上げ、ボロ船で海へ送り出す。彼らが命を落とそうが、知ったことではない。詩人のファティは、妻子とともにトルコの難民キャンプを脱け出し、ワルマンに頼み込んでボートに乗るのだが、、。
 さらにボートが目指す対岸、ギリシャのレスボス島の沿岸警備隊船長スタヴロス。彼はこれまで1万人以上の難民を市の危機から救い出してきた。だが彼は、救うことのできなかった千人を超える難民を思い、心に深い傷を負っている。生死に係わる極限での人と人の出会いの厳しさを、監督は私たちに静かに伝えてくれる。
 終幕のアミラの短いシーンも、このような難民を生み出してしまう世界とは何なのか、と問いかけずにはいない。アンダーセン監督は、見知らぬ人に思いやりを持って欲しい、それだけで世界が変わる、と訴えているが。

『アイ・ワズ・ア・ストレンジャー』
[2024年/アメリカ・ヨルダン・パレスチナ/英語・アラビア語/カラー/104分]G
監督:ブラント・アンダーセン
出演:オマール・シー、ヤスミン・アル・マスリー、ジアド・バクリ、ヤヤ・マヘイニ、コンスタンティン・マルクーラキス
原題:I WAS A STRANGER
配給:ハーク/配給協力:フリック
© 2025 Refugee The Film.LLC

田村志津枝
ノンフィクション作家。一方で大学時代から自主上映や映画制作などに関わってきた。1977年にファスビンダーやヴェンダースなどのニュー・ジャーマン・シネマを日本に初めて輸入、上映。1983年からホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンなどの台湾ニューシネマ作品を日本に紹介し、その後の普及への道を開いた。

▼こちらからPDFファイルをダウンロードして頂くことができます。
7月の PICK UP MOVIE !『アイ・ワズ・ア・ストレンジャー』“私たちは よそ者に やさしくなれるだろうか”(文:田村志津枝)

▼本作について詳しくはこちらから
『アイ・ワズ・ア・ストレンジャー』

ピックアップ記事

関連記事一覧

Facebook