• HOME
  • ブログ
  • お知らせ
  • 11月の PICK UP MOVIE !『Blue Heron/ブルーヘロン』“真の思いやりとは その人を分かろうとすること”(文:田村志津枝)

11月の PICK UP MOVIE !『Blue Heron/ブルーヘロン』“真の思いやりとは その人を分かろうとすること”(文:田村志津枝)

お知らせ

真の思いやりとは その人を分かろうとすること

 1990 年半ばの夏、8歳の少⼥サーシャは3人の兄と両親とともにカナダ・バンクーバー島に移り住んだ。海辺の丘から一望できる美しい街。広い庭で水遊びをしたり、野原を駆け回ったりして、子供たちは新しい友人にも馴染んでいった。
 けれども一家は、楽しげな子供たちとは裏腹な軋みを抱えていた。それは長男のジェレミーだ。彼は言葉による意思疎通が不可能かと思えるような行動をとる。親の言うことを聞かないばかりか、玄関前に長時間死んだように横たわっていたり、海岸に遊びに行っても一人だけどこかへ行ってしまったり、挙句に万引きで警察に捕まったり。一家はハンガリー系移⺠で、ジェレミーは幼い時ハンガリー訛りの英語のせいでいじめられたというが、それが奇妙な行動の原因とも思えない。
 専門家に相談しても、ジェレミーの問題行動の解決策は見つからず、両親は疲弊していく。少女時代のサーシャは、ジェレミーが引き起こす騒ぎや感情の爆発も、両親の悩む様子や苛立ちも、ごく普通の日常の風景として見ながら育って行った。
 これが90年代後半の出来事というのには意味がありそうだ。昨今では小さな問題行動にも、ことごとく医療的な病名がつけられる。すると本人も周囲もそれだけで分かってしまった気になる。けれどサーシャは、困らされた兄の謎を解きたいと思い続ける。あのときジェレミーは何を思っていたのだろうか、と。
 あの夏から20年後、映画監督になったサーシャは、幼い時には分からなかったことをあらためて探ってみようと決意する。しかし記録を駆使して記憶をたぐり寄せても、⼈の⼼の内を知るのは難しい。そんなサーシャを救ったのはジェレミーの幼友達から届いた1通の手紙だった。ジェレミーを気にかけてくれていた人がいる。ジェレミーが丹念に描いた地図に感動してくれた人がいる。
 ジェレミーが残した架空の街を描いた数々の地図は、彼が生きていた抽象的な世界を表現したものかも知れない。あの地図を見直すことでジェレミーをもっと知ることができそうだ、そうサーシャは思ったに違いない。
 より多くの情報を効率よく入手することばかりが良しとされる現在、自分のすぐそばにいた人を大切に思い、理解したくて見つめ続ける。それは自分の内面を耕し、誰もが偶然によって生かされていることを確認する貴重な作業だ。人を思いやり、記憶を語り継ぐ孤独な作業のうえに、感動的な作品が誕生した。
 ちなみに、「ブルーヘロン」は作中にちらりと登場するアオサギのことです。

『Blue Heron/ブルーヘロン』
[2025年/カナダ・ハンガリー/英語・ハンガリー語/1.66:1/91分]G
監督・脚本:ソフィー・ロムヴァリ
出演:エイリュル・ギュヴェン、イリンゴー・レーティ、アーダーム・トンパ、エディク・ベドーズ、エイミー・ジマー
配給:プンクテ
© 2025 NINE BEHIND PRODUCTIONS LTD. BODDAH RIOTFILM KFT.

田村志津枝
ノンフィクション作家。一方で大学時代から自主上映や映画制作などに関わってきた。1977年にファスビンダーやヴェンダースなどのニュー・ジャーマン・シネマを日本に初めて輸入、上映。1983年からホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンなどの台湾ニューシネマ作品を日本に紹介し、その後の普及への道を開いた。

▼こちらからPDFファイルをダウンロードして頂くことができます。
11月の PICK UP MOVIE !『Blue Heron/ブルーヘロン』“真の思いやりとは その人を分かろうとすること”(文:田村志津枝)

▼本作について詳しくはこちらから
『Blue Heron/ブルーヘロン』

ピックアップ記事

関連記事一覧

Facebook