3月の PICK UP MOVIE !『みんな、おしゃべり!』“そうだそうだ、たくさんしゃべって、ぶつかりあおう”(文:田村志津枝)
そうだそうだ、たくさんしゃべって、ぶつかりあおう
誰かと話したいのに言葉が通じなかったら、どんなことが起きるだろう。そのときあなたはどうするだろう。
心配することはない。人間と人間、ぶつかり合えば面白いことが起きるさ、と思わせてくれる傑作が登場した。ただその混乱ぶりも大変なものではあるが。
ある町の商店街の電器店。近頃では個人商店はどこも閑散としている。そのうえここの店主の古賀はろう者だ。たまたま入ってきた客とも、コミュニケーションのタイミングが合わず、不審そうな顔で出ていかれてしまう。聴者だった妻が亡くなって3年になるが、いまだに客の応対には四苦八苦だ。
同じ商店街にトルコ人(と皆が言っていたけれど実はクルド人)たちが、店を出すらしい。そのクルド人の一人ルファトが電器店に買物か何かにやってきた。ところが些細な事故が原因で古賀とケンカ勃発。言葉が通じないから互いの言い分も分からないまま、二人は犬猿の仲になってしまう。相手への疑心暗鬼のせいで、クルド人グループと、古賀たちのろう者グループは、何かと諍いをするようになった。
古賀には聴者の娘・夏海と、ろう者の息子・小学生の駿がいる。ルファトには日本生まれで日本語が話せる息子ヒワがいる。夏海とヒワは、事あるごとに通訳をさせられる。だがこの世はどうやら、通訳さえいれば話が通じて和解できるというほどヤワではなかった。クルド人グループの中にも、ろう者仲間にも、駿の学校でも、言葉をめぐって、あるいは他者との関係をめぐって問題山積だ。それらのグループからはみ出している夏海とヒワは、こんがらかった親たちの諍いに嫌気がさして逃げ出してしまった。
今回の諍いの原因は、駿のノートだ。そこに書かれたアラビア語のような文字をめぐり、大人たちは乱闘寸前だ。だが駿たちはと言えば、大人の争いなどどこ吹く風、また新たな遊びを生み出したらしい。逃げ出した夏海とヒワが戻ってくると、なんと大人たちは仲良く酒など酌み交わしているではないか。その顛末は本作を見てのお楽しみ、としよう。
この国にも日本語話者ではない人が、どんどん増えている。言葉による意志や情報の伝達はもちろん必須だ。けれどももっと大事なのは、違う文化を持つ人を尊重することではないか。マイノリティのクルド人やろう者の主張が、穏やかに楽しく表現された本作には、河合健監督自身の、コーダ(ろうの親を持つ聴者の子供)としての経験が生かされているに違いない。
『みんな、おしゃべり!』
[2025年/日本/16:9/143分]G
出演:長澤樹、毛塚和義、福田凰希、ユードゥルム・フラット、Murat Çiçek、那須英彰、今井彰人、板橋駿谷、小野花梨
監督:河合健
脚本:河合健、乙黒恭平、竹浪春花
企画・配給・製作プロダクション:GUM 株式会社
配給協力:Mou Pro.
©2025 映画『みんな、 おしゃべり!』製作委員会
田村志津枝
ノンフィクション作家。一方で大学時代から自主上映や映画制作などに関わってきた。1977年にファスビンダーやヴェンダースなどのニュー・ジャーマン・シネマを日本に初めて輸入、上映。1983年からホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンなどの台湾ニューシネマ作品を日本に紹介し、その後の普及への道を開いた。
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3月の PICK UP MOVIE !『みんな、おしゃべり!』“そうだそうだ、たくさんしゃべって、ぶつかりあおう”
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『みんな、おしゃべり!』
