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1月の PICK UP MOVIE !『プラハの春 不屈のラジオ報道』“一市民が 政治的行動に踏み切るとき”

お知らせ

一市民が 政治的行動に踏み切るとき

 1968年、世界のあちこちで、人々は理想を掲げて行動を起こしていた。フランスの5月革命、アメリカのベトナム戦争反対運動、日本の全共闘運動などなど。それぞれは独自の展開をとげて、その過程で悲劇も起き、また新たな希望も生まれた。私たち世代の青春は、まさに「政治の季節」だったのだ。
 チェコスロバキアでは「プラハの春」が起きた。当時ソ連の影響下にあったノヴォトニー政権は、共産党一党独裁体制下で厳しい検閲制度を敷いていた。そんななかで民主化を求める声が次第に高まり、チェコスロバキア共産党内でも改革派ドプチェクが第一書記に就任。検閲は廃止されて活気がよみがえったかに見えたが、自由を謳歌する「春」は半年ほどで潰えてしまった。ソ連とその同盟国が軍事侵攻して、自由化の動きを鎮圧したのだ。
 このとき現場の最前線で、政府の命令に背いて正しい情報を伝えようと奮闘したのが国営ラジオ局国際報道部の記者たちだった。チェコスロバキアではこれまでも「プラハの春」を扱った映画はあったが、本作は自由を求める闘争の渦中を描いた点で出色だ。
 現実に起きた事件を、実在の人物を配してドラマ化したこの作品には、アーカイヴの記録映像が巧みに使われている。生成AIによる画像も適切にはさまれ、まるで歴史的な出来事に立ち会っているかのような臨場感を味わわせてくれる。そのうえで主人公には実在の人物ではなく、監督が造形したトーマシュを据えたことで、政治的激動に自分ならどう対処するだろうと考えさせられる作品となった。
 トーマシュは、家族を思い仕事の安定を願って生きる、ごく普通の青年だ。彼はすでに両親を亡くしていて、17歳の弟を親代わりに監督しつつ、通信局の通信技師として実直に働いている。その彼がふとしたことから、国営ラジオ局国際報道部長ヴァイナーの元に送り込まれる。しかも彼は、ヴァイナーを監視するスパイの役割を担わされていた。民主化運動に参加している弟の逮捕をダシに脅迫され、引き受けざるを得なかったのだ。
 そんな無力な市民であったトーマシュが、圧倒的な武力で迫って来るソ連の軍事侵攻に立ち向かい、偽りの情報を放送するよう強要する政府に闘いを挑んだ。ラジオというメディアを駆使し、特に政治的でもなかった市井の人が、あるとき大胆で有意義な行動を選択する。その姿がリアルに緻密に描かれていく。当事者であるチェコスロバキアの人々に強く支持される作品になったゆえんであろう。また「政治の季節」を知らない今の若者たちへの痛切なメッセージでもあると思う。

『プラハの春 不屈のラジオ報道』
[2024年/チェコ・スロバキア/チェコ語/シネスコサイズ/131分]PG12
監督・脚本:イジー・マードル
出演:ヴォイチェフ・ヴォドホツキー、スタニスラフ・マイエル、タチアナ・パウホーフォヴァー、オンドレイ・ストゥプカ
原題:Vlny(英題:Waves)
配給:アット エンタテインメント
© Dawson films, Wandal production, Český rozhlas, Česká televize, RTVS – Rozhlas a televizia Slovenska, Barrandov Studio, innogy

田村志津枝
ノンフィクション作家。一方で大学時代から自主上映や映画制作などに関わってきた。1977年にファスビンダーやヴェンダースなどのニュー・ジャーマン・シネマを日本に初めて輸入、上映。1983年からホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンなどの台湾ニューシネマ作品を日本に紹介し、その後の普及への道を開いた。

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1月の PICK UP MOVIE !『プラハの春 不屈のラジオ報道』“一市民が 政治的行動に踏み切るとき”

▼本作について詳しくはこちらから
『プラハの春 不屈のラジオ報道』

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