映劇レポート:『タゴール・ソングス』佐々木美佳監督

お知らせ

臨時休館明け、久々の対面での舞台挨拶は『タゴール・ソングス』の佐々木美佳監督にご登壇いただき、インドやバングラデシュに関心を寄せる当館理事の直井が聞き手としてお話をお伺いしました。ベンガル語を学び、タゴールに出会った監督が、なぜ映画を撮ろうと思ったのか。タゴール・ソングやベンガル語の魅力についてたっぷりと語ってくださいました。

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直井:さっそく、お話を伺っていきたいと思います。実は、私『タゴール・ソングス』について、制作している様子をFacebookのページなどで拝見していて。もともともバングラデシュにすごく興味があって、勉強していた時期がありました。バングラデシュが国としてできた頃からのことを調べていくとタゴールってしょっちゅう出てくるので

佐々木美佳監督(以下、佐々木監督):そうですねぇ。バングラデシュの国歌になっていたり、ベンガル語の基礎を作った人とも言われてますし、アイデンティティを形成する中で、やっぱりタゴールって人がすごい大事な人というのは、いろんな人とお話ししていて感じますよね。

直井:佐々木監督がすごくお若いということもあって、なんで一番最初にタゴールだったのかなというところが気になるのですが、その辺少しお話聞かせていただけますか?

佐々木監督:私、大学の時にベンガル語を学び始めたんです。ベンガル語を勉強してからタゴールって人がいるんだってことを知りました。タゴールのタの字も知らないでベンガル語を勉強を始めて、タゴールって1913年にノーベル賞獲って、文学者でガンディーと並ぶ偉人なんだっていうことで遠い存在に思っていたんです。
けれど、ベンガル語をいざ勉強して、いろんなベンガルの人とお話しする中で「タゴール・ソングって本当に素晴らしいんだ」とか「タゴールが大好きなんだ」とか、そういう話やCDショップでタゴール・ソングのCDが売られてたり、子ども達がタゴール・ソングを習っている文化があるんだっていうのを、だんだん聞く中で「おやおや? これ、どういうことだろう?」っていうのがすごく気になり出して、そこから「タゴール・ソングをまず翻訳してみよう」って思って研究テーマにしていたんです。
だんだんと歌だけ翻訳しててもやっぱり「タゴール・ソングってなんなんだろう?」っていうのが正直なところでした。でも、いろんな人の話とか物語とか「なんでその歌が好きなんですか?」っていう風に聞いてくうちに、朧げにタゴール・ソングの輪郭がわかってきた感覚があって。その歌を知ってく過程を、なんだろう、自分もやっぱり、ベンガルの人に歌を教えてもらう中で、タゴール・ソングが好きになっていったってこともあって。その感覚をまた伝えたいなと思ったのが、この映画を撮り始めるきっかけでしたね。そんな感じでした。

直井:結構、いろんな世代の方が映画にも登場されていて、それもすごくおもしろいなと思ったのですけど、若者がタゴール・ソングを自分の感覚として取り入れてるっていうのがすごいなと思いましたね。今回の映画に登場されている方々とはどうやって出会ったのかなっていうのがちょっと気になりました。

佐々木監督:演歌歌手みたいなレズワナ・チョウドリ・ボンナさんっていうバングラデシュの一番有名と言っても過言ではないタゴール・ソングの歌手の方は、大学の先生のご友人でしたので、アポイントメントを取ってお話できました。映画に出てきた女子大学生のオノンナ(・ボッタチャルジー)さんという方は、道端でばったり出会って、それで「ちょっと映画に出てもらえませんか?」っていう風にスカウトしましたね。ラッパーの方が色々出て来たと思うんですけど、彼らはYouTubeで音楽を聴いて、Facebookとかをいっぱい探してダイレクトメッセージを送って、「日本人でタゴール・ソングの映画を作ってるんですけど、タゴールでラップのカバーをされていてすごい興味深いので、ぜひお話をお聞かせください」という風にもお声かけしたりして、いろんな出会いがありましたね。

直井:なるほど。すごい。そんな出会い方で映画に出演して日本にも来てしまうという

佐々木監督:ほんとに、いろんな出会いと展開があって、結構紆余曲折ありながらなんとか完成したということでしたね。

直井:撮影していて面白かったエピソードとか、収録しきれなかった歌があったりしますか?

佐々木監督:収録しきれなかった歌がほんとにたくさんあって、泣く泣く入れられないなぁってことで、例えば、歌の先生オミテーシュ(・ショルカール)さんっていう方が出てこられたと思うんですけど、おじいさんの。彼の歌なんかほんとにたくさん色々撮っていて、まだまだすごい良いタゴール・ソングがあるんですけど、やっぱり詰め込みきれないということもあって、お蔵入りソングがいっぱいあります。

直井:登場されてたお弟子さんがいらっしゃってて、あの過程を見ていて、歌を、タゴール・ソングが完成するってどういう状態なのかなっていうか、ただ歌うっていうものだけではないんだろうなと思いました。たぶん、それはベンガルの人にとってのタゴール・ソングスっていうことなのかもしれないんですけど、その辺は監督の視点から見てどうですか?

佐々木監督:やっぱり、歌を修得する、体得する、自分のものにして、タゴール・ソングを歌うっていうのは、修行みたいなものなんだなっていうのは感じましたね。教える学校とか、師匠から弟子にそうやって直接教えるっていうことも、形式というか様式として脈々と一本線がずっと続いてるっていうこともあるんですけど。ほんとにそれは、師匠と弟子の、まさにオミテーシュさんとプリタ(・チャタルジー)さんみたいに、ずっと時間をかけて体得していくものだし
タゴール・ソングって「ひとりで進め」みたいに誰にとっても優しい歌というか、普遍的な歌もあるんですが、一方でもっと奥深さもある。これは何を言ってるんだろう、わからないけど歌うっていう歌もあって、深さと広さがあるからこそ、逆にポピュラーにもなるし、それを生涯をかけて習得しようって思う人もいたりして、それはこれだけ100年超えて生き残ってる歌の強さを感じましたね。

直井:それが古典の魅力みたいな?

佐々木監督:魅力。でも、古典と言ってもインドの中のインド古典音楽とか舞踊とかからしたらこれは古典じゃないんですよね。だから、複雑というか、インドの豊かさをそこでも感じますね。結局タゴール・ソングはモダンなんだっていう。100年という単位から見ると。

直井:100年、インドの歴史からすると

佐々木監督:まだ若いっていうか。でも、日本で逆に100年以上時を超えて歌われている歌ってなんなんだろうって考えると、私たちの言葉の文化に相応するものってなかなか=(イコール)で挙げられる歌ってないなっていうのは、ずっと思ってたりしますね。

直井:なるほど。タゴールが歌った詩というのは、ものすごくきっと幅広いと思うんですけれども、愛の歌もあれば、自然との対話みたいなところもあるかもしれない。その中で特にこんな部分がタゴールの歌で一番魅力を発揮してるんじゃないかっていうのはありますか?

佐々木監督:映画の中でだいたい20曲くらい登場するんですが、それらの歌ってだいたいよく聞かれるタゴール・ソングだと個人的に思っています。仰る通り、恋愛の歌で盛り上がってるシーン、女子会4人みたいなシーンもあって、ああいう恋愛のことを歌った歌もあれば、「黄金のベンガル 私は貴方を愛しています」っていう風に自然との関わりを歌った歌もある。「悲しみ 喜び」っていう人生のことを歌った歌もあって。私もこの映画何回も繰り返し観てるんですけど、その時によって響く歌、入って来る歌が変わるんですよね。それが逆にいわゆる魅力なのかなと思っていて、自分が必要な時に必要な歌が、その中に、2000曲以上ある中のタゴール・ソングの中のどこかに、ひとつあるっていう感じがしています。「今日は「ひとりで進め」に励まされたな」とか、「今日は対等に扱ってほしいって言葉が響いたな」とか、ほんとにそんな感じで飽きないっていうのが魅力ですね。

直井:すごいですね。それこそが言葉の持つ力というか、生きる上ですごい必要じゃないかと個人的にもすごく感じています。

佐々木監督:特に歌とか、言葉ってタダで手に入るモノでもあるじゃないですか。お金がなくても、耳で聞こえてくる言葉だったりとか、街のどこかで看板とかで目にする言葉だったりとか。それに励まされてしまうっていうことがタゴール・ソングでよくあります。学問としていろんな教養とか、学校に行けない人って、バングラデシュ、インドに多くいらっしゃるんですけれど、どこかしらで耳にしていたり、国家だから、聴いている、歌っているから、何かしらタゴールの歌が実はみんなの中に染み込んでいるということもあって……

直井:(タゴール・ソングスは)文字で残っていないものも多い?

佐々木監督:タゴール・ソングに関しては、実は楽譜集みたいになっています。タゴールの周りにいた人がタゴールの歌を聞いて、楽譜に起こしてるからこそ、タゴールが、その時考えていた音階とかがちゃんと残っていて、それをそのままコピーすることができます。

直井:詩を読むのが、音階がついていたというような形だったと?

佐々木監督:そうですね。タゴール自身がまさに言葉を作って、それにメロディをのせるので、いわゆるシンガーソングライターと言いますか……。楽譜を残して、誰でもそこにアクセスすれば、タゴールが当時考えていたタゴール・ソングがそのまま歌えるってこともある。一方で、タゴール・ソングってパブリックドメインになっていて、誰でもコピーできて、YouTube上で自由に自分のタゴール・ソングを発表することができるので、また別な角度でどんどん広がっているっていうこともあって非常に面白いですね。

直井:著作権フリーみたいな

佐々木監督:そうです、著作権フリーなので、私でも歌ってYouTubeにアップできます。だから、ああやってラップの中でタゴール・ソングを引用して歌ったりも逆にできちゃうと言いますか。それでまた新しい世界をどんどん作ってる人たちが今もいますよね。

直井:いやあ、すごい。おもしろい。

佐々木監督:おもしろいんですよ。

直井:もう一個監督に聞きたいことがあって、ベンガル語になぜ惹かれたのか?

佐々木監督:ベンガル語になぜ惹かれたのか。映画の中で98%くらいベンガル語流れてるんですけど、とにかく私は響きがすごい綺麗だと思っています。聴いてるだけでうっとりしてしまうというか、その感じが最初にあって。甘い言葉っていう言い方をするんですね、ベンガル語。スウィートっていう表現を使うんですけど、いわゆるフランス語もそういう感じもすると思うんですけど、ベンガル語はベンガル語で豊かな音の響きがあって、最初にそこに惹かれたっていうのがあります。あとは、やっぱりその後でタゴールっていう人がいて、ベンガルは文化、文学が盛んなんだっていう風に聞く中で、この言葉はなんとしても自分で聴けるようになったり、話せるようになりたいなっていうのが本当のピュアな動機ですね。

直井:感覚的なところですね。

佐々木監督:そうです、感覚として惹かれちゃったっていう。

直井:言語の魅力と言語が多様であるということを改めて思うことと、メッセージの普遍性みたいなものがギュッと凝縮されていて、すごく素敵な作品でもう一回観たいと思います。

佐々木監督:ありがとうございます。私も観る度に色んな発見があって、歌を毎回毎回発見してるような感じなので、何回観ていただいても必ず何かしら気付きがあるので、もしよかったら期間中ぜひ何回でも観て欲しいなと思います。

会場からの質疑応答では、タゴールと日本との関わりや、『タゴール・ソングス』がインドやバングラデシュでも配信されていることについて、映画に対する現地の反応はどうだったかなど興味深い質問がありました。上映終了後のサイン会では、映画の感想を監督に伝えるお客様も多く見られ、賑わいを見せていました。『タゴール・ソングス』は現在トラゥム・ライぜ(旧でんき館)にて7/17()まで上映予定です。お見逃しなく!

『タゴール・ソングス』(作品詳細)
上映中〜7/17()@トラゥム・ライゼ(旧でんき館)
7/12()▷18:10-19:55
7/14()17()▷15:55-17:40

仮設の映画館
http://tagore-songs.com/temporary-cinema.html

この舞台挨拶は202074日におこなわれました。
【登壇者】佐々木美佳監督
【インタビュアー】直井恵(NPO法人上田映劇理事)
【カメラマン】原悟(番組編成)
【執筆者】もぎりのやぎちゃん

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