シャンタル・アケルマン映画祭2023

過去の上映作品
[上映日程]6/3~15(休映:6/5、12)

映画に革命をもたらした伝説の映画監督。

2022年、イギリス映画協会が10年ごとに選出する「史上最高の映画100」で代表作『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』が見事1位に輝いたシャンタル・アケルマン。日本でも昨年、同作を含んだ5作品が公開され多くの人に衝撃を与えたのは記憶に新しい。今回の特集は、瑞々しい処女短編からミュージカル・コメディ、自分自身と家族の思いを、あるいは時代の転換を映し取ったドキュメンタリー、断片的な言葉と静謐な映像で綴ったドラマなど、彼女の作品のあらたな側面を発見するまたとない機会となるだろう。

主催:マーメイドフィルム
配給:コピアポア・フィルム
宣伝:VALERIA
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本、ベルギー大使館

[上映作品]
『街をぶっ飛ばせ』(1968)
『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(1975)
『家からの手紙』(1976) 
『一晩中』(1982) 
『ゴールデン・エイティーズ』(1986)
『東から』(1993)
※全てデジタルリマスター版

[上映スケジュール]

[公式サイト]
chantalakerman2023.jp

『街をぶっ飛ばせ』 Saute ma ville
[1968年/ベルギー/モノクロ/12分] 
監督・出演:シャンタル・アケルマン
撮影:ルネ・フルシュター
Collections CINEMATEK – ©Fondation Chantal Akerman

当時18歳だったアケルマンが、ブリュッセル映画学校の卒業制作として初めて監督、主演を務めた記念すべき処女作。花束を手にアパートの階段を駆け上がったひとりの女。鼻歌を口ずさみながらパスタをつくって食べ、調理器具をばらまき、洗剤をまき散らし、マヨネーズを浴びる。狭いキッチンで縦横無尽に暴れ回った彼女の支離滅裂な行動は、驚くべき事態で幕を閉じる。その後の反逆的な作品群の原点とも言える破壊的なエネルギーに満ちた、あまりに瑞々しい短編。

※『家からの手紙』と併映

『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』 Jeanne Dielman, 23, quai du Commerce, 1080 Bruxelles
[1975年/ベルギー/カラー/200分]
監督・脚本:シャンタル・アケルマン
撮影:バベット・マンゴルト
出演:デルフィーヌ・セイリグ、ジャン・ドゥコルト、ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ
© Chantal Akerman Foundation

ジャンヌは思春期の息子と共にブリュッセルのアパートで暮らしている。湯を沸かし、ジャガイモの皮を剥き、買い物に出かけ、“平凡な”暮らしを続けているジャンヌだったが……。アパートの部屋に定点観測のごとく設置されたカメラによって映し出される反復する日常。その執拗なまでの描写は我々に時間の経過を体感させ、反日常の訪れを予感させる恐ろしい空間を作り出す。ジャンヌを演じるのは『去年マリエンバートで』(61)、『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』(72)のデルフィーヌ・セイリグ。

◎2022年BFI(英国映画協会)選出「史上最高の映画」ベストワン

『家からの手紙』 News from Home
[1976年/ベルギー・フランス/カラー/85分]
監督:シャンタル・アケルマン
撮影:バーベット・マンゴール、リュック・ベナムー
Collections CINEMATEK – © Fondation Chantal Akerman

路地、大通りを走る車、駅のホームで電車を待つ人々、地下道…… 1970年代ニューヨークの荒涼とした街並みに、母が綴った手紙を読むアケルマン自身の声がかぶさる。固定ショットやトラベリングで映し出される公共のロケーションと、時折車の音に掻き消されながらも朗読される、愛情溢れる言葉の融合。都会の寂しさと、遠く離れた家族の距離がエレガントな情感を持って横たわる、映画という〈手紙〉。

※『街をぶっ飛ばせ』と併映

『一晩中』 Toute une Nuit
[1982年/ベルギー・フランス/カラー/90分]
監督:シャンタル・アケルマン
撮影:カロリーヌ・シャンプティエ、フランソワ・フェルナンデス、マチュー・スチフマン
出演:オーロール・クレマン、チェッキー・カリョ、ヴェロニク・シルヴェール、ヤン・デクレール
Collections CINEMATEK – ©Fondation Chantal Akerman

ブリュッセルの暑い夜、眠りにつくことのできない人々。ある者は恋人の腕のなかに飛び込み、ある者は街に繰り出し、夫婦は語らい、そしてある者はバーでダンスを踊る……。官能的な熱を帯びた一晩の中で連結していく、数々の出会いや別れ。詩的な青色の夜を描き出す撮影監督の一人に、ジャック・リヴェット監督『北の橋』(81)、80年代のジャン=リュック・ゴダール監督作品、近年ではレオス・カラックス監督『アネット』(2021)を手掛けた名女性キャメラマン、カロリーヌ・シャンプティエ。

『ゴールデン・エイティーズ』 Golden Eighties
[1986年/ベルギー・フランス・スイス/カラー/96分]
監督:シャンタル・アケルマン
脚本:シャンタル・アケルマン、ジャン・グリュオー、レオラ・バリッシュ、ヘンリー・ビーン、パスカル・ボニゼール
撮影:ジルベルト・アゼヴェード、リュック・ベナムー
出演:デルフィーヌ・セイリグ、ミリアム・ボワイエ、ジャン・ベリー、リオ
© Jean Ber – Fonda&on Chantal Akerman

美容院やカフェが並ぶパリのカラフルなブティック街を舞台に、そこで働く従業員たち、客たちが恋模様を歌い上げるミュージカル。パステルカラーの衣装に身を包んだ登場人物たちが歌い踊るロマンティックな浮遊感と、愛に対するアケルマンの容赦ない視線が巧みにバランスされている。シナリオにはフランソワ・トリュフォー監督作品に欠かせないジャン・グリュオー、アンドレ・テシネ監督『ブロンテ姉妹』(79)やジャック・リヴェット監督『美しき諍い女』(91)を手掛けたパスカル・ボニゼールと名脚本家が参加した。

『東から』 D’Est
[1993年/ベルギー・フランス/カラー/115分]
監督:シャンタル・アケルマン
撮影:レイモンド・フロモン、バーナード・デルヴィル
Collections CINEMATEK – © Fondation Chantal Akerman

ポーランドやウクライナ、東ドイツといった、ソ連崩壊後の旧共産主義国の都市とそこで暮らす人々の姿をとらえたドキュメンタリー。ナレーションや場所の名前をも排して、アケルマンは時折市井の人々の家庭の様子を散りばめながら、果てしない距離や文化情勢、生活様式を記録した。洞窟のような駅のホーム、カメラを見つめる人々の表情、寒空……。透徹した眼差しがその場所で確かに流れる時間と観客を近づけ、好奇心を駆り立て、映像そのものが静かに語りはじめる。

※日本語字幕無し

シャンタル・アケルマン Chantal Akerman

1950年6月6日、ベルギーのブリュッセルに生まれる。両親は二人ともユダヤ人で、母方の祖父母はポーランドの強制収容所で死去。母親は生き残ったのだという。女性でありユダヤ人でありバイセクシャルでもあったアケルマンは15歳の時にジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』を観たことをきっかけに映画の道を志し、18歳の時に自ら主演を務めた短編『街をぶっ飛ばせ』(68)を初監督。その後ニューヨークにわたり、初めての長編『ホテル・モンタレー』(72)や『部屋』(72)などを手掛ける。ベルギーに戻って撮った『私、あなた、彼、彼女』(74)は批評家の間で高い評価を得た。25歳のときに平凡な主婦の日常を描いた3時間を超える『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』を発表、世界中に衝撃を与える。その後もミュージカル・コメディ『ゴールデン・エイティーズ』(86)や『囚われの女』(99)、『オルメイヤーの阿房宮』(2011)などの文芸作、『東から』(93)、『南』(99)、『向こう側から』(2002)といったドキュメンタリーなど、ジャンル、形式にこだわらず数々の意欲作を世に放つ。母親との対話を中心としたドキュメンタリー『No Home Movie』(2015)を編集中に母が他界。同作完成後の2015年10月、パリで逝去。

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